さよなら教育業界
学習塾業界から足を洗って(なんて失礼な表現だろう)安定した業界に転身した方がいいと思いつつ、とりあえず目の前の経済的事情により、手っ取り早く職にありつける学習塾での勤務を始めました。
事前の情報通り、自分とは合わない経営スタイルでした。
それでも非常勤講師(バイト)なので、授業だけに集中していればいい、お気楽な身分です。
ただこのままずっと続けるわけにもいかんのです。非常勤講師というのは時間給なので、シフトによって収入も変わり、業績が悪化した場合のリストラ先として真っ先に挙げられる不安定な立場です。
私って天才かもね
さいわい、以前勤務していた学習塾での厳しい研修のおかげで、私にはどこに行っても通用する理系の指導スキルがありました。勤務先には理系の先生がたくさんいましたが、私ほどスキルがある先生は数える程しかいませんでした。
自慢みたいですみませんが、事実そうなんだから仕方ない(自慢じゃん)。受験を控えた生徒やテストを前にした生徒からは指名がくるほどでした。
「(正社員であるはずの)あの先生じゃ不安だから、(バイトであるはずの)君にやって欲しい」
「このクラスは受験を控えて皆モチベーションが高いから、(バイトであるはずの)君に面倒見て欲しい」
「今度来る先生はまだ経験も浅く、指導に不安があるので、(バイトであるはずの)君が(正社員であるはずの)先生に、教え方を指導してあげて欲しい。
指名料とればよかったかな(笑)
あちこち授業を担当しました。便利屋扱いですが時間給なので、授業をすればするほど収入になります。ありがたい話です。
高校受験対策だけでなく、私立中学受験対策も担当しました。
私立中学にはピンからキリまでありますが、学校の授業内容に比べてレベルの高い内容が多く、専門の学習塾に通って勉強する必要があります。学校で成績がいい程度では、とても太刀打ちできないのが普通です。
また大学受験対策も担当したり、特定の私立学校に特化したクラス(カリキュラムが独特で、公立の学校とは一緒にできません)を担当したり、色々経験させていただきました。
下は小学生から、上は医学部受験を目指す浪人生まで、同時に担当していました。授業準備が無茶苦茶大変でした。
指導に限りませんが、仕事にこだわりがある人は、準備に入念に時間をかけるもんです。
この頃はペン画はあまり描けませんでしたね。
あまり描いていないと、腕前は落ちます。久しぶりにペンを執ると、手に馴染まなくて苦労しました。
人生の底
色々な塾舎を渡り歩くことになり、色々な事情を目の当たりにすることになります。
ここまでひどくても平気なのか、と呆れてしまう状況も見てきました。同僚の他の先生たちにも、それが分かっている人と分かっていない人がいて、人間の多様性(良く言えば)をまざまざと感じました。
自分が見ている風景を、同じように他人も見ていると思ったら大間違い。ココロが入れ替わったら、という仮定の漫画やドラマがしばしばありますが、実際にそうなったら、驚くべき世界が見えるでしょうね。
バイト身分である非常勤講師とはいえ、生徒たちの前では同じ先生。グッとこらえて全力で頑張ってきました。経営者とも何回か相談する機会があり、私の感じた違和感を訴えましたが、「君の考え方は古いよ」と一蹴されました。
やはり人間、長年生きてきたスタイルは変わらないものですね。
これまで生きてきて、「こいつは敵だ」と思える人はほとんどいなかったのですが、この時ははっきりとそう思いました。
時は流れたので、今は特別な感情はありません。世の中いろんな人がいます。
振り返ると、この頃が私の人生の一番の底でした。「私って天才かも」と無理やり自分に言い聞かせないと、心を病んでいたと思います。
別れは突然に
勤務して3年目のある日、とあることで経営者と衝突しました。
いろいろ話し合いましたが、妥結することはできず、辞めました。同僚の中には、私と考え方の近い先生達は何人かいて、経営者に対し同じような違和感を感じていた事もあって、心配されました。
心配ありがとう。元気にやってるよ。
また辞めた後も、生徒達からの指名があったらしく、「悪いけど戻ってきてくれないか」と敵であるはずの経営者に言われたこともありました。
当然断りましたが・・・。
指名してくれた生徒には申し訳なかったな。ごめんね。
しかし、人生の敵さん、戻ってきてくれとは・・・、いまさら何言うねん。
もう、学習塾業界で勤務することはないな、と思いました。
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